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廃トンネルの少女
廃トンネル。真っ暗で壊れた壁から漏れる水の音だけが響くその場所で、小学生ほどの背丈の人ならざるものが暇を持て余していた。彼女はここで数多の命を屠ってきた壊魔である。しかし、トンネル内に入ってもらわないと能力が発動できないことを知られてから、このトンネル自体に近づくものがいなくなってしまった。来客がいなくなってしまっては、何もやることがない。彼女はとても暇を持て余していた。
「こんにちは、ライサ嬢♡」
カツカツと硬いヒールの音。聞き心地の良い男の声。このトンネルに久しぶりの新しい音が入ってきた。
「……! トルース様! お久しぶりです!」
「ええ、お久しぶりですね♡」
背が異様に高く、明らかに人ではない見た目の男を歓迎する少女。珍しい来客にライサの黒く細い尻尾が楽しそうに揺れていた。
「ほんとうに久しぶりですね! 来ていただけて嬉しいです!」
「それはなによりです♡」
全身で喜びを表す彼女を見て、トルースも平時の意地の悪い笑みではなく、心からの幸せそうな笑みを見せ尻尾を揺らした。
「ところで……今日は何用でしょうか? もしかして、最近殺せてないから怒られてしまうのでしょうか……?」
不安そうにつぶやくライサに思わず笑いが出る。
「いやいや、その程度で怒るような我々じゃないですよ♡ただ、貴女が好きそうな本を拾ったので渡そうかと思いまして♡」
トルースは懐から、大きく白くてトップページにでかでかと電車の写真が載った本を取り出した。
「これは……旧時代の電車の図鑑! こんな状態の良いもの、もらっていいんですか!?」
「ええ♡ 私が持っているより、貴女のほうが有効活用できるでしょう?」
「もちろんです!」
状態の良い電車の図鑑を抱き、満面の笑みを見せるライサ。尻尾はちぎれんばかりに振れており、いかに嬉しかったか一目でわかる。
「ありがとうございますトルース様! 一層破壊に身を尽くします!」
「ふふ♡ 喜んでいただけて何よりです♡」
では、と一礼して去っていくトルースの背にライサはめいっぱい腕を振り続けた。
「トルース」
「おや、陛下にアイドゥ様♡ お揃いで私に用があるのですか♡」
「トルース殿……本を探していたのはそういう理由だったのですね……」
「称賛」
「大したことではありませんよ♡ ほんとにたまたま拾っただけです♡」
とは言うものの、実際のところは彼女が落ち込んでいると聞き、各地の古書店を襲って旧時代の電車の図鑑探していた。彼にこれ以上聞いてものらりくらりとかわされるだけ、と分かっている魔壊帝とアイドゥ宰相は追求しなかった。
「帰還」
「そうですね、帰りましょうか♡」
トルースは自身の半分ほどしかない魔壊帝を抱きかかえる。帰還の魔法陣を描き、発動する前に彼女に耳打ちした。
「……ああ、彼女の力を強くすることは可能ですか?」
「相談」
「はい、お父上に相談しないとだめですよね……わかりました」
しょんぼり、と尻尾が垂れ下がる。その様子を見ていたアイドゥ宰相は、まぁなんだかんだで強化されるんだろうなぁ、とぼんやり考えていた。
後日。ライサのトンネル付近の路線を利用しようとすると、低確率で旧人類の電車がやってきて食われるという都市伝説が広まったのはまた別の話。